毎日ゴキゲン♪の法則・スピ編

これからは「自分ファースト」で

「久山町の悲劇」の真実とは

糖質制限ダイエット」について調べていたところ、福岡県久山町の研究結果について、九州大学の担当教授のインタビューが雑誌「栄養と料理」に掲載されていることを知った。
さっそく、図書館で借りて読んでみた。

「栄養と料理」2013年11月号/特集 血糖値を上げない食事術より

本当に糖質のとりすぎのせい?
なぜ「久山町」で糖尿病が増えたのか (P110-115)

九州大学大学院教授・清原裕氏
久山町研究の4代目主任
久山町での動脈硬化性疾患および悪性腫瘍の発症率、死亡率、危険因子について研究中*1
また、久山町の疫学調査から得られた臨床・遺伝子情報を基に、生活習慣病の環境要因と関連遺伝子について解析している。

久山町研究とは

福岡県久山町の住民を対象に1961年から現在まで継続されている生活習慣病疫学調査
久山町は人口8000人
年齢・職業構成は61年当時からこの50年余りにわたり、全国平均とよく一致している
住民の栄養摂取状況も国民健康・栄養調査の結果とほとんど変わらない

久山町住民を標準的国民のサンプル集団ととらえ、40歳以上の全住民を対象に詳細な健康診断と長期にわたる追跡調査を行い、生活習慣病罹患率や発症原因、合併症、死因などのデータを解析、論文にまとめている

「久山町が全国平均よりも糖尿病罹患率が高い」という批判について

  • ふたつの調査は方法が大きく異なるため、単純に比較できない
  • 全国平均 国民健康・栄養調査の糖尿病調査*2で「糖尿病が強く疑われる人」が2002年では男性12.8%、女性6.5%、2007年では男性15.3%、女性7.3%
  • 久山町 2002年の糖尿病有病率が男性23.6%、女性13.4%

■国民健康・栄養調査

  • 全国から5000~6000世帯を無作為抽出、その中から20歳以上で血液検査及び質問票の回答に応じた人が対象
  • 血液検査でHbA1cが6.1%以上あるいは質問票で「現在糖尿病の治療を受けている」と回答した人を「糖尿病が強く疑われる人」と判定

■久山町

  • 40歳以上の全住民を対象とした健康診断で、5年ごとにほぼ全員に糖負荷試験*3を行っている
  • 糖負荷試験を導入している理由――耐糖能レベルを正確に判定するには糖負荷試験が必要。特に「糖尿病予備軍」と呼ばれる耐糖能異常は、糖負荷試験を受けなければ診断できない

確かに、比較対照群が違う*4ことと、一部自己申告を含む上に測定の方法も大きく違うため、これを単純に比較するのは無理があると思う。


清原氏は久山町の調査結果の方が、現実の糖尿病有病率に近いのでは、と考えているそうだ。

確かに久山町の糖尿病患者はこの20年ほどで急増していますが、それは日本人全体でも同様にいえることです。久山町の糖尿病有病率がとりわけ高いのではなく、80%を超える受診率と先述の糖負荷試験の実施により導き出された久山町の糖尿病有病率が、日本人全体の糖尿病有病率にきわめて近い数値を示しているのだと思います(P113)。



しかも、「糖質制限」推進派の言っていることと違う点も?

久山町研究はあくまで観察研究であり、私たちは食事指導などの介入は行っていません(以下略)(P115)。

「久山町の悲劇」として紹介される時、“ある栄養大学が日本糖尿病学会の推奨する糖質60%の食事指導をした”と書いてあることが多いが、九州大学ではチームを組んでやっていたわけではない、ということだろうか。


実は糖質摂取量は全国平均よりも久山町の方が低い(1965年から2004年までの栄養比率で比較)。
※誌面を撮ったものなので見づらいですが、グラフをご参照ください
色の濃い部分が炭水化物を表しています。左が久山町、右が国民健康・栄養調査。

炭水化物エネルギー比のみ、数字を拾うと

1965年 久山町 68.6 < 70.4 国民健康・栄養調査
1985年     55.9 < 57.1
1994年     54.2 < 55.8
2004年     57.2 < 59.7

となっている。
このデータが正しいとするなら、「久山町の悲劇」は事実とは違うことになるのではないか。

総エネルギー摂取量よりも食事内容に着目し、糖尿病の有病率と食品群別摂取量の時代的推移を検討したところ、糖尿病の増加に伴い増加している唯一の栄養素が動物性脂肪であることがわかりました。このことから、動物性脂肪は糖尿病の最大のリスクであると考えられ、肉類を増やせば当然、動物性脂肪も増えるので、肉類はとりすぎないほうがよいといえます(P114)。


清原氏の以下のコメントは私の疑問にきちんと答えてくれていると感じ、スッキリした。

 私は糖質限定食を否定するつもりはなく、やり方によっては有用でもあると考えていますが、糖質をほとんどとらない極端な食事法や、糖質を制限すれば後は何を食べてもよいという考え方には賛成できません。糖質を制限した分のエネルギーをなにでとるのかが問題で、糖質制限だけで糖尿病がなくなるわけではありません(P113)。



糖質制限の問題点については、特集の他のページ*5にうまくまとめられていた。

 確かに、糖質をほとんど摂取しないと、代わりに体内の脂肪が分解されてエネルギーとして利用され、体重が減ります。しかし、筋肉に蓄えられているグリコーゲン(糖の一種)も減少するので、強度の強い運動ができなくなります。また、ここまで糖質を制限*6すると、脂肪分解のさいにうまれるケトン体という副産物が血液中に増えます(高ケトン血症)が、その場合の安全性はまだ確認されておらず、リスクが大きいのです(P12)。


ポイントはケトン体をいいものと考えるか、悪いものと考えるか?だと思う。
私はどちらに肩入れするつもりもなく、実際のところどうなのかと、私に合うのか?が知りたくて調べている。
ただ、この記事を読む限り、糖質制限がいいとする根拠はちょっと無理がある気がする。


これから、自らの体験で糖質制限を推進する江部康二さんの『主食をやめると健康になる』を読みます。

*1:本来は糖尿病を対象とした調査ではない、ということです。疫学調査のデータとして素晴らしいので、さまざまな研究に使われています

*2:1997年、2002年は「糖尿病実態調査」として実施されたが、03年からは国民健康・栄養調査に統合

*3:空腹時血糖を測定後、75g糖水溶液を摂取し、2時間後の血糖値の変化(食後血糖値)を測定するもの。空腹時血糖126mg/dl以上、あるいは75g糖負荷後2時間価200mg/dl以上が糖尿病と診断される

*4清原氏は健康に関する調査で回答する人は健康に自信のある人が多いため、実際の結果よりもよく出る傾向がある、という趣旨の説明をされていました

*5:血糖値と糖質のウソ・ホント/監修 帝塚山学院大学食物栄養学科教授・津田謹輔

*6:主食をとらずに1日に摂取する炭水化物(糖質)の量を総摂取エネルギーの20%までにおさえる