毎日ゴキゲン♪の法則・スピ編

これからは「自分ファースト」で

料理研究家の人気は時代とリンクしている☆☆☆☆

【読書感想】小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代 ☆☆☆ - 琥珀色の戯言

 
新書なのだが、うわー面白そう、と思って図書館で予約した。こうした「料理研究家論」というのは、おそらく初めてではないだろうか。
想像以上に、いろんなことについて考えさせられる本だった。

 

◆目次◆
まえがき
プロローグ――ドラマ『ごちそうさん』と料理研究家
第一章 憧れの外国料理 
(1)高度成長期の西洋料理――江上トミ、飯田深雪
(2)一九八〇年代のファンシーな料理――入江麻木、城戸崎愛
(3)平成のセレブ料理研究家――有元葉子
【料理再現コラム1】『入江麻木の「なすのムサカ」
第二章 小林カツ代の革命
(1)女性作家の時短料理術
(2)小林カツ代と「女性の時代」
(3)カツ代レシピを解読する
(4)息子、ケンタロウの登場
【料理再現コラム2】 小林カツ代の「栗ご飯」
第三章 カリスマの栗原はるみ
(1)平成共働き世代
(2)はるみレシピの魅力
(3)あえて名乗る「主婦」
(4)最後の主婦論争
【料理再現コラム3】 栗原はるみの「にんじんとツナのサラダ」
第四章 和食指導の系譜
(1)昭和のおふくろの味――土井勝、土井善晴、村上昭子
(2)辰巳芳子の存在感――辰巳浜子、辰巳芳子
【料理再現コラム4】 土井勝の「栗と鶏肉の煮もの」
第五章 平成「男子」の料理研究家――ケンタロウ、栗原心平、コウケンテツ
【料理再現コラム5】 ケンタロウの「焼き厚揚げのオイスターソース」
エピローグ――プロが教える料理 高山なおみ
あとがき

目次は、今回あえて細かいところまで書いた。
というのも、タイトルだけではわからなかったが、時代やジャンルごとにたくさんの料理研究家を取り上げていて、7ページでは「ハレ←→ケ」「本格派←→創作派」の2軸でマトリックスまで載っているからだ。目次の詳細を見れば、だいたいイメージできるのではないだろうか*1
実は子どもの頃「料理研究家」という仕事に憧れていた時期があり、図書館で料理やお菓子の本を借りてはせっせと書き写していた私には、懐かしいお名前や著書がたくさん登場して、本当に楽しかった。


ただ、それほど親しんできた「料理研究家」の人気の変遷が、時代の流れや女性の生き方とこんなに連動しているとは、この本を読むまでまったく気づかなかった。

 料理研究家が教えるのは、家庭料理である。彼女・彼たちが必要とされるのは、私たちの暮らしや食べたいものがどんどん変わり続けているからだ。人気となる料理研究家にはその時代に登場する必然がある。
(中略)
 料理研究家を語ることは、時代を語ることである。彼女・彼たちが象徴している家庭の世界は、社会とは一見関係がないように思われるかもしれないが、家庭の現実も理想も時代の価値観とリンクしており、食卓にのぼるものは社会を反映する。それゆえ、本書は料理研究家の歴史であると同時に、暮らしの変化を描き出す現代史でもある(P4-5)。


高度経済成長時に職業として求められるようになった料理研究家。はじめの頃は海外旅行も自由にできなかったため、海外在住経験がある、パリの料理学校で学んだといった、日本では得にくい情報をもつ料理研究家が人気だったという。


小林カツ代さんは、実は料理の仕事のキャリアは長かったそうだが、ブームになったのは1980年頃。仕事を持つ既婚女性が増え、働きながら朝晩の食事はもちろん、お弁当まで作らなければならない。小林カツ代さんは、そういった人たちの救世主だったのだ。

――小林カツ代さんがその頃のNHK「きょうの料理」に(おそらく)初めて登場した時の母親の反応を覚えている。
お店で買ってきたカツは、そのままでは裏側に水分が溜まり衣がベタベタでおいしくないので、裏返して衣をはがし、そこにチーズをのせてオーブントースターで焼く、というレシピだったと思う。


それを見た母はひと言
「あんなものは料理ではない」
と顔をしかめた。
当時は専業主婦の方がまだ多く、「きょうの料理」を見る主婦たちに「時短料理」はあまり求められていなかったと思う。他の先生の作る料理は、手間ひまかけて作るものばかりだったので。

この本を読んで納得した。当時は何でそんなものをわざわざ料理番組で、と不思議に思ったが、カツ代さんは家庭料理に革命を起こした人だったのだ。


このあとを受けるのが栗原はるみさん。「カリスマ主婦」と呼ばれ、ご自身も「自分は主婦である」と言い続けている点は「自分は家庭料理のプロだ」とこだわったカツ代さんとは正反対だが、著者によれば

小林が起こした家庭料理の革命を、栗原はるみは完成させたのである(P145)。

という。


この本では、時代の求めるレシピの変遷をたどるため、さまざまな料理研究家のビーフシチューの作り方を掲載している*2(和食が中心の研究家の場合は肉じゃが)。

確かに、違いがわかって面白い。
小林カツ代さん登場以前のレシピは、ところどころ家庭でもできるよう工夫はされているが、ほぼ本格的な作り方になっている。


ところが、カツ代さんのレシピは、味つけは「缶詰のデミグラスソースを入れる」のだ。それまで、市販品を言い訳なしに使った料理研究家はいなかったそうだ。カツ代さんは、手抜きをしたい主婦の現実を見抜いていたのだという。


一方、栗原さんはトマトピューレやとんかつソースなどを入れ、デミグラスソースやブラウンルーを作る手間は回避している。味つけに市販加工品をどんどん使うのが栗原さんの特徴だという。ふつうの主婦がそうするのと同じように。

栗原さんは主婦たちのアイドルとなり、料理だけではなくライフスタイル全体を提案する人になる。それも、時代の流れなのだろう。


さまざまな外国料理に手を出した反動の和食ブームがあったり、料理を作らない人が増えた結果、それを憂う人たちによって辰巳芳子ブームが起きていたり、という時代の流れも著者の解説でよくわかる。


それにしても、驚くのは著者のリサーチ力のすごさ。
プロローグでNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)『ごちそうさん』の主人公のエピソードが、誰のものか明かしてある*3。著者は大筋は辰巳浜子さん、前半生と大阪編の一部は小林カツ代さんだと言うのだが、確かに、それぞれの人生などを見ればほとんどそのまま。ドラマを見て、ストーリーは覚えているので驚いた。
そのくらい、登場する研究家すべての人生が家庭環境から何から全部綿密に書いてあるのだ*4
というのも、著者には信念があるからだ。

料理研究家のスタイルを決める原点には、必ず育った環境がある(P97)。

カツ代さんが、たまにはお総菜を買ってもいい、と言っていたのは、実家がそういうやり方だったからだそうだ。
そう思っていろんな料理研究家の本を見ると、それぞれ得意なものと、育ったバックボーンはリンクしているのだな、と納得した。


個人的にはとても興味深く読めたし、いろんなことを考えさせられた。ただ、それは私が著者とほぼ同世代であることも大きい。
イマドキの「料理のレシピはクックパッドを見ればいい」という人たちに、この本がどう読まれるのかはわからない。

でも、食べることをはじめ生き方を見直すためにも、いいきっかけになる本です。これから自分の台所を持つ人たちや、食べる方がほとんどの男性もどうぞ。
私のアクション:自分のライフスタイルに合っている料理研究家は誰なのか、考えてみる
■レベル:破 テーマは「料理」ですが、本格的評論なので、読みごたえはあります

※この本のメモはありません


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こういう本が世に出るようになったのも、小林カツ代さんのおかげかもしれませんね。  

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*1:このほかにも、名前だけ登場する方もいらっしゃいました

*2:分量は載っていません。あくまで比較のためなので、レシピもかなりはしょってあります

*3:NHKは公表していないはず

*4:この本の内容が正しければ、有元葉子さんの料理研究家以前のお仕事は「ファッション誌の編集者」でした。私が信じていた「科学雑誌ライター」という肩書きはいったいどこで見たのやら。とほほほ。すみません