毎日ゴキゲン♪の法則・スピ編

これからは「自分ファースト」で

糖尿病の「正しい治療」で、うつや認知症のリスクが下げられる☆☆☆☆


医師・岡本卓さんの『糖尿病最新療法』の続編。『本当は怖い「糖質制限」』を読んだ時にこの本が出ていると知り、読んでみた。
この本こそ「本当は怖い糖尿病治療」じゃないか、と驚いた。


◆目次◆
はじめに
第1章 日本の糖尿病治療は血糖学
第2章 糖尿病患者にうつ病が多いという衝撃
第3章 認知症の原因は糖尿病だった!?
第4章 糖尿病治療の目的は心筋梗塞脳卒中を防ぐこと
第5章 食べて健康、歩いて治す!
第6章 家庭医だからできる糖尿病治療
第7章 インスリンはやめられます!
おわりに


著者によれば、日本で行われている糖尿病治療は「血糖学」だという。患者を見ずに血糖値のデータばかり見て、数値が目標値を上回っていると怒られるというのだ。

 日本糖尿病学会がすすめている血糖コントロールの…目指すべき値は、「良」のHbA1c(NGSP値、以下同)6.2~6.9%未満(JDS値5.8~6.5%未満)。理想的なのは「優」のHbA1c6.2%未満(JDS値5.8%未満)とされています(P14)。
※(注)HbA1cの測定数値が2012年4月1日から変更されている。今までは日本でのみ使われていたJDS値だったが、世界で標準的に使用されているNGSP値になった。


ところが、実際には「血糖値は下げすぎるべきではない」というのが世界的な流れ。
英国の国立最適保健医療研究所(NICE)のガイドラインでは、糖尿病の治療はHbA1c6.5~7.5%の間にコントロールすることが求められている。しかも、「HbA1cを6.5%以下にすることは避ける」と明言されている。

なぜなら、低血糖は実はさまざまな問題を引き起こす犯人だからだ。
重症の低血糖を起こして救急搬送される糖尿病患者は増えているし、意識障害や脳障害の結果、死に至るケースもあるという。

 糖尿病治療において、低血糖という副作用が死亡率を上げる犯人であることは、ほぼ確定していますし、低血糖を起こしやすいのは、なんといってもインスリンとSU剤だということもわかっています。ですから、これらの薬はできるだけ使用せず、大事にとっておくというのが世界的にはほぼ常識となってきています(P31)。


ところが、日本ではまだこれらの薬を使って強力に血糖コントロールをするのが主流だという。
今年4月に大阪・御堂筋で車が暴走した事故も、糖尿病患者が低血糖発作を起こしたのが原因とされている。これも(憶測ではあるが)血糖値のコントロールを厳格にやりすぎた結果なのではないか。


前の著書では「三大合併症(糖尿病性神経障害・糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症)より本当に怖いのは心筋梗塞脳卒中」という、今までの常識を覆す説を提示していた著者(もちろん、この本でもていねいに説明されています)。
今回はうつや認知症との関係を、豊富なデータとともに紹介している。

実はうつは、糖尿病によって起きるというよりも、治療によって引き起こされている可能性が高いという。

※米国ジョンホプキンス大・ゴールデン博士らが2008年におこなった研究より
 結果は、年間1000人あたりのうつ病の発症率は、正常血糖値では36.8、対糖能異常では27.9、未治療の糖尿病では31.2、治療をしている糖尿病では61.9でした。
(中略)
 つまりこの結果は、糖尿病そのものでははなく、糖尿病治療が抑うつを誘発する可能性を示しているのです。
(中略)
 これら一連の研究結果*1から、糖尿病患者さんがうつ病を併発するには、糖尿病の治療が大きく関係しており、特に、インスリン治療が関与していることは間違いない(以下略)(P43-45)。


また、まだ仮説ではあるが、アルツハイマー病は実は“3型糖尿病”だとする説も紹介されている。

…脳のインスリン欠乏状態とインスリン抵抗性がアルツハイマー病のおおもとの原因である可能性が出てきたといえます。つまり体で起こる糖尿病が1型・2型糖尿病で、脳内で起こる3つ目のタイプがアルツハイマー病ではないかということです(P73)。


さらに、「糖尿病発症を少しでも遅らせることが、脳卒中予防につながる」という研究もあるという。

2012年3月に発表された北マンハッタン研究では、糖尿病になってからの長さが、脳卒中のリスクファクターになる結果を出しています。
(中略)
 そして、糖尿病の罹患期間1年あたり、3%ずつ脳卒中のリスクが上昇しており、糖尿病になっていなかった場合と比べ、0~5年の罹病期間の人は1.7倍、5~10年では1.8倍、10年以上では3.2倍、脳卒中が増えていたのです(P124)。



おそらく、この本で著者が最も言いたいことは

 心筋梗塞脳卒中を防ぐことを目的とした糖尿病治療の基本は、HbA1c7.4%(JDS値7%)以下を保ち、薬やインスリンで無理やり6.5%以下にはしない、低血糖を起こさない緩やかな血糖コントロールです(P125)。

だと思う。
この本を読んで初めて、だから『本当は怖い糖質制限』で、あれだけ低血糖にならないのかを気にされていたのだ、と納得した。


この本でも糖質制限食についても触れられているが、『本当は怖い糖質制限』で書かれていたように、ここでは“短期にとどめておくべき”という、マイルドな表現だ。
著者が患者さんに推進している方法は、『本当は怖い糖質制限』でも紹介されていたのと同じく“食事を1日1600キロカロリー程度にし、15分以上の運動(ウォーキングなど)をする”というもの。
それでも、実際にインスリンをやめられた人、薬も飲まなくてよくなったケース*2も紹介されていて、希望が持てる。


糖尿病はほとんどの場合、一生つき合っていくことになる病気だ。一時がまんするとか、しばらく節制するというレベルでは対応できない。
だからこそ、持続可能な方法が必要になるのだ。

著者は最後に、患者さんの気持ちにより添う必要性について書いている。

 人間、意志が強い人ばかりではありません。患者さんには、病気になりたくないのになってしまったという悔しい気持ちもあるでしょう。だからこそ、必要なのは、叱る医療ではなく、心を支える医療なのだと思います(P173)


できるだけ患者さんの話を聞き、必要ならばと心療内科まで開設*3してしまう著者。
私はこんな先生に診てもらいたい。


いまだに血糖値にこだわる医師は多く、中には経営面からインスリンを続けさせる場合もあるそうだ。
患者も言われるままではなく、できるだけ自分で勉強し、判断できるようになることがこれからは大切だと思う。
糖尿病患者さんやそのご家族だけではなく、「転ばぬ先の杖」として、ぜひ読んでみてください。
私のアクション:運動(ウォーキング)15分を心がける
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読書日記:『本当は怖い「糖質制限」』
読書日記:『インスリン注射も食事制限もいらない 糖尿病最新療法』


※この本のメモはありません

*1:本では複数の研究結果が示されています

*2:すべての人がやめたり、減らせたりするとは限りません。また、残念ながら1型は対象外です

*3:糖尿病に限らず、治療でのカウンセリングの重要性を、この本でも繰り返し書かれています