地元も地元、よくお世話になる阪急今津線が舞台のストーリー。映画化された時にそれこそ関西ではたくさんのタイアップ企画があってテレビでもよく目にしたのだが、何となく映画は見ないままになっていた。
オットが借りてきたので読んでみたら、ものすごく面白かった。読み終わるまで本がまったく下に置けなかった。
阪急今津線というのは、神戸線と宝塚線をつなぐ短い線で、各停しか走っていない。時間にして15分くらいなので、いったいこんなところでどんな物語が?というのが一番の興味だった。それも、映画にできるほどインパクトのあるストーリーを。
有川浩さんの作品を読むのは初めてだったが、「へー、上手いことできるもんやなぁ」と舌を巻いた。すべての駅で乗り降りするわけではないが、何組かのそれぞれの物語がうまくからみ合ってひとつの大きな物語になる。
さすがに15分では終わらなくて、半年後に最初(宝塚→西宮北口)とは逆の下り(西宮北口→宝塚)でその続きが語られる。そんなにうまく同じ電車に乗り合わせるか?とちらっと思うが、それは本当に最初だけで、ぐいぐい引き込まれる。
それぞれがそれぞれの場所で幸せを見つけていくので、読み終えると自分まで幸せな気持ちになれた。
ミーハーな私は、読み終えた直後にちょうど西北の駅*1を通ることがあり、出てくる「ちょっと変わったもの」*2を探しに行った。
ありましたありました。数え切れないくらいそこは通っているのに、おのぼりさんのようにはしゃいでみっともない。
家に帰ってその箇所をよく読んでみると、きちんと場所が特定できる表現になっていた。有川さんはきっとすべてをその緻密さで書いているんだろうな、と思った。私は下りたことがないのでわからないが、この物語の中核をなす「小林駅」近くに住んでいたことのあるオットは、「読んでいて懐かしくなった」そうだ。
文庫版は、私にとってもうひとつ大きなギフトをくれた。何と、解説が児玉清さんなのだ。亡くなられた時、自分でも驚くくらい、心にぽっかり穴が空いたようになってしまった。
好きな作家の作品は翻訳される前に原書で読んでしまう、というくらい知的な児玉さんが喜々としてこの本を読まれ、解説を書かれている――。正直言って「こんな若い人が読むような本を私が読むのもなあ」という気持ちもあったが、いい作品に年齢は関係ないんだ、と教えてもらえた気がする。
小説と映画と、どちらを先にするかは難しいところですが、映画本編から外されてしまった*3最初と最後を飾る素敵なカップルの話は先に読んでおいてほしいので、どちらかと言えば「本から先」をおすすめします。
問題は、本を読んだ時の頭の中のイメージが実際の役者さんと違う場合ですよね。私は祥子が柴咲コウさんになってしまったので*4、ちょっと映画を見るのが怖いかも。
*1:西宮北口のこと。文中に「西北」派と「北口」派に分かれる、とありますが、大学でこの線を利用していた時は「北口」と呼び、なぜか今のうちに引っ越してから「西北」になりました
*2:まだ読んでいない方のため伏せておきます
*3:スピンオフ作品として今は購入できます阪急電車 片道15分の奇跡 征志とユキの物語 [DVD]
*4:演じているのは中谷美紀さん